日本酒が売れない理由と不人気の原因から紐解く可能性
日本酒はご存知の通り人気が低迷しており、なかなか売れない上に、酒造好適米の生産も年々下がっていく一方です。日本の酒「日本酒」ともいわれるものなのに、日本人に受け入れられないのはなぜかを分析し、そこから何か起死回生のチャンスはないか探ったコラムです。
酒造好適米の生産量推移
まずは歴史的な米の生産に関して見てみます。
食管法と食糧法
出典:農林水産省
農林水産省の資料によると、昭和17年から平成7年にかけて「食管法(食糧管理法)」という、お米の生産量調整、供給調整を行っていた時期がありました。平成5年の米の大不作などから、お米の備蓄管理のみを国が担うようになり、平成16年の「米政策改革大綱」などを経て、今に至ります。
酒造好適米の生産量減少傾向
最も如実に日本酒が飲まれていないことを示すのが、その日本酒の原料になる酒造好適米の生産量の減少です。
年 | 生産量(トン) |
平成21年 | 約71,000 |
平成22年 | 約65,000 |
平成23年 | 約65,000 |
平成24年 | 約68,000 |
平成25年 | 約76,000 |
平成26年 | 約90,000 |
平成27年 | 約107,000 |
平成28年 | 106,618 |
平成29年 | 102,400 |
平成30年 | 95,856 |
令和元年 | 96,708 |
農林水産省発表のデータでは、酒造好適米は平成27年までは生産量が増えていましたが、その後減少し続けています。日本にとっては時代の変わり目、平成から令和になる時には「新嘗祭 奉納酒」というような特別な日本酒も生産されるので、若干増産されたようですが、それでも平成26年頃の生産量に達するほど下がっています。
※出典1:https://www.maff.go.jp/j/seisaku_tokatu/kikaku/attach/pdf/sake_01chousa-2.pdf
※出典2:https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/attach/pdf/mr-8.pdf
※出典3:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kouzou2/hyouka/chousa/tiikibukai23/siryou5.pdf
日本酒の販売量推移
出典:農林水産省
農林水産省発表の資料では、酒類の出荷量は大きな変化が見受けられます。日本酒に至っては、昭和55年頃からずっと出荷量は減少傾向にあり、一時的に酒造好適米の生産が増えていたのにも関わらず日本酒の出荷量は増える様子がありません。
これは日本酒も特定名称と呼ばれる一定の条件を満たす日本酒でないと売れなくなっているためで、一般酒及び本醸造酒と呼ばれる日本酒は大幅に出荷数が減って半分以下になっています。
日本酒の製造過程より、精米歩合50%、60%と生産されたお米を半分近く削って日本酒にするため酒造好適米が増えても、生産過程でお米が実質半分の量になります。吟醸、大吟醸という名称の日本酒でないとなかなか飲んでもらえないため、酒造好適米は増やして、それでも、日本酒の出荷は減っています。
生産調整以外に原因がある
酒造好適米の増産、日本酒のうち、一般酒・本醸造酒の大幅な減少を見て分かるのは、お酒の生産の仕方や生産調整が日本酒が売れていない、人気がないという直接の理由にはならないということです。データで見ると、それでも酒造好適米の生産量が減っているのは、相当やばい状況だと言って差し支えないでしょう。
日本酒をただ売ることに関しては、海外への輸出が成功しています。アメリカ、中国、韓国、台湾、香港などへの日本酒の輸出が非常に多く、日本酒の全出荷量に占める輸出の割合は平成10年で0.7%、令和元年には5.1%と数値でいえばだいぶ上昇傾向にあります。数%の差しかないですが、販路拡大は一つの戦略としてアリでしょう。
日本酒の欠点について
酒呑みの方ならばなんとなく分かっているであろうことを、一応書き出しておきます。主に日本酒には以下の欠点があります。
- 売り場面積に対して売上が伸びない
- めちゃくちゃマズイ酒がある
- 1回あたり気軽に飲めない
- 悪酔いしやすい・くさい
- 瓶ゴミの処分がめんどくさい
- アルコール度数が高め
- リキュールとして生かしにくい
- 持ち帰るのが重い
- 旨い日本酒がコンビニにない
- 旨い日本酒の相場価格が他より高い
缶ビールや発泡酒は度数は控えめで、まとめて積み上げて販売できる上に、大勢が飲むのでトータルで商品の循環が多い。コンビニなどで買っても持ち帰りやすく、なんかかっこよく、気軽に飲める上に、ごみ処理も割としやすく場所を取らない。何より、無難においしい上に、苦手なものであっても少量なのであきらめが付く。
ワインに関しては西欧かぶれ、欧米かぶれできる上に、フルーティーでなんか高級感があるイメージで、割と飲みやすいものが多い。最近はアルパカ、ネコのワインなんかも出てきて、日本人の舌にあっていて、安くて、飲まれやすいものも登場したので、やはりちょっと飲んでみようと気軽に手が出せるようになりました。
若者のお酒予算は減っている
お酒を飲み始める20歳くらいは、女子なら美容、脱毛、旅行などに占める出費が多く、男子もバイク、車、ゲーミングPC、ゲーム機、デート代、スマホ代などにお金を使うので、あんまりお酒を嗜む機会がない。その上、近年の新卒の月収は15万円~20万円で、田舎では新卒月収13万円なんてところも多いので、お酒にかけるお金なんかないというのが実情。
仲間内でお酒を飲もうとした時に、おしゃれで甘くてジュースみたいにおいしい「ほろよい(100円|350ml)」を買うか、なんとなくクサそうでおいしいか分からない巨大な瓶の日本酒(1500円|720ml)を買うかといったら、どうしても「ほろよい」や「ストゼロ・モンエナ」に手が伸びるわけですよ。
お酒よりもお腹膨らませるためにお金を使いたいので、飲み放題、食べ放題を楽しむケースも多く、そういう場合の飲み物はビール、モスコミュール、カシスオレンジ、スクリュードライバーとかになっちゃうわけで、若い、お酒飲み始めたばかりの20代にお酒の消費量を上げることを期待するのがそもそも間違いなんです。
中年のお酒予算・余裕も減っている
それなら、30代、40代ががんばって飲めばいいじゃんって言われても、一番働き盛りで、中間管理職ポジションで、本来なら収入も上がってきて、余裕も出るかと思ったら、結婚や家の購入、仕事の転勤、仕事が忙しすぎるなどの理由でお酒どころじゃないんですよ。
日本酒をおいしく感じる舌も出来上がりつつ、日本酒を買えるだけの収入にもなるんですが、体力が追いつかないんです。結局酔いたければ「ストゼロ・モンエナ」がコスパがよくて、コンビニでも変えて無難によくて、ごみ処理もしやすいということで、そっちにいっちゃうんです。
安い日本酒は確かにマズイ
日本酒も低価格、低容量で売ればいいじゃんって思っても、カップ酒みたいな日本酒はなんか道端のおじいちゃんがラジオ聴きながら飲んでるイメージが強くて、ダサいんです。しかも結局ガラスなので捨てにくい上に、安い日本酒はびっくりするくらいマズイんです。
純米生酒、吟醸、大吟醸などの特定名称の日本酒でも安い価格帯の1500円くらいのものは驚くほどマズイものがあって、あたり、はずれが怖いです。マズイ日本酒を飲んでしまうとやっぱりイメージが落ちて、日本酒よりも手軽に、確実においしい缶チューハイやビールに手が伸びちゃうんです。
解決策・解決案
ここでは、私なりの解決策をあげてみました。
日本酒試飲イベントを増やす
七賢の酒蔵でやっているような、50円から250円で1万円するような日本酒を味わえるような試飲イベントをあっちこっちで開催して、とにかくおいしい日本酒の存在を知ってもらい、日本酒を多くの人の身近に置き、日本酒おいしいじゃん!と思ってもらう所から始める必要があります。
新潟のぽんしゅ館のワンコイン試飲みたいなのを、各地に作ればいいんです。全国の都道府県の主要な駅ビル内の酒屋とかでそういうコーナーを作れば接触回数を増やせるわけです。
おいしい酒との接触回数を増やす
私がこのサイトでやっているように、とにかくおいしい日本酒を探し出して、世界に向けてちゃんと発信する必要があります。どんな味で、どれくらいおいしいのかを分かりやすく伝えて、ちょっとそれはおみやげに買ってみようか、とか、記念日用に覚えておこうとか、おいしい日本酒との出会いのきっかけを作る必要があります。
多くの利酒師や呑んべえさんは、日本酒を飲み分けてテイスティングしたり、自分が味わっておしまいで、表現力も専門用語ばっかりでわかりにくく、伝わりにくく、情報発信というよりは自分だけ楽しんでるだけで終わっています。嗜好品なのでそれだけでいいんですが。
日本酒のイメージを改善する
日本酒はなんとなくクサイ、ダサいというイメージがついてしまっているのと、ゆるキャンのぐび姉やYouTubeの今酒ハクノのように酒クズが悪酔いして飲んでるイメージがどうしてもある(日本酒600銘柄飲んでる私も酒クズ)ので、もっとクリーンに、華麗に、美しく、きれいに飲んでいるイメージを定着させる必要があります。
縁側で、自然を眺めながら、浴衣や着物姿で花火でも見ながら淡々と味わい、星空や花火を嗜んでいるような情景。イマドキの自室ワンルームの中で、ゲーミングPCに馴染むような雰囲気で、きれいに、すっきりと、かっこよく日本酒をクイッとキメる情景。そういうのを広めるべきなんです、ウイスキーのように。
気づいた人から意識して飲む
無理をして飲む必要は一切ないけれど、日本酒もビールもおいしいのは事実で、常にお酒を飲んでいろという気もないのですが、日本酒の良さを知ったら、やっぱり、日本酒も飲んでほしいです。もちろん、国産ワインだって同じで、稼いだお金をどこに適切に回せばハッピーか、よく考えて見てほしいと思います。
日本酒は国内生産のお米を使って、国内で作られていて、酒税法の税金もビールより安くて、農業にも酒蔵にも売上で貢献できます。色んな意味でとてもコスパが良い嗜みですので、見かけた時はぜひ飲んでみてほしい。